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Lesson#3.11 パネル展示「5年前、そして5年間に起きたこと」(日本科学未来館)


福島第一原発事故では、原子炉から放出された放射性物質の被曝による健康被害が心配されています。


日本科学未来館(注1)のパネル展示「Lesson#3.11:5年前、そして5年間に起きたこと」(注2)では、放射線被曝による健康被害についても解説しています。


■ DNA の切断と癌の発症
放射線をあびることによって DNA の片方の鎖が切れたり(1本鎖切断)、両方の鎖が切れたり(2本鎖切断)します。DNA は2本の鎖が対となり、らせん状につらなる構造をしています。

細胞には DNA の切断を修復機能がありますが、修復ミスが生じたとき、細胞はアポトーシス(細胞死)をおこします。この方法もうまくいかずに傷のある DNA がのこってしまった場合、それは癌細胞になるおそれがあります。

放射線被曝は発癌リスクを増やすことがわかっています。100mSv 被曝した場合、癌による死亡リスクは 30% から30.5% に上がります。

ただし癌を発症させる要因としては、喫煙や過度の飲酒、塩分のとりすぎなどもあります。


■ 福島県では、甲状腺癌の患者が多い
原発事故で原子炉から放出されたヨウ素131は、呼吸などによって体内にとりこまれた場合、甲状腺にあつまる性質があり、甲状腺癌をひきおこしやすいことが知られています。実際、チェルノブイリ原発の事故後、放射線被曝が原因の甲状腺癌が多発しました

福島県では、事故発生当時18歳以下だった子供たち、およそ38万人を対象に甲状腺癌検査がおこなわれています。2015年12月31日までに癌および癌疑いと診断された人数は165人でした。これは、日本全国における甲状腺癌の患者数などから推定した値にくらべて数10倍も高い値でした

この発癌の原因が、原発事故による放射線の影響によるものか否かは議論がつづいています。


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被災者には、放射線被曝だけでなく、震災後の生活変化によってさまざまな健康被害があらわれています。

福島県では、事故直後におよそ16万5千人が自宅をおわれて避難し、現在でもおよそ10万人が避難生活をつづけています。自宅に帰還を果たした人々にも、5年前とおなじものは何一つ存在しないきびしい現実があります。

福島第一原発事故は、居住地の喪失、健康被害、人生の変化、コミュニティの崩壊など大きな災難をもたらしました。

事故から5年たった今日でも問題は解決されず、健康被害については、時間をかけてこらから拡大していくのです。まったく恐ろしい話です。



▼ 注1
日本科学未来館 

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▼ 注2
Lesson#3.11 パネル展示「5年前、そして5年間に起きたこと」


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