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ネパール王国探検記―日本人世界の屋根を行く (1957年) (カッパ・ブックス)

ネパール王国探検記 (講談社文庫)

フィールドワークの記録をいかに書くか、『ネパール王国探検記』はそれを知るための原点となる非常に重要な本です。

1953年、ヒマラヤの巨峰マナスル登山隊の科学班の一員であった川喜田二郎は、ネパール王国に約半年間にわたって滞在し、ヒマラヤ山麓を踏査しました。本書はそのときの学術探検記です。おもに文化人類学的視点から当時のネパールの様子を詳細に記録しています。

川喜田が参加したのはマナスル第一次登山隊、この隊は、13名からなる登山班のほかに2名からなる科学班がつくられ、川喜田はこの科学班のメンバーでした。

以下に、本書からポイントを抜き書きしてみます。

ネパールの首府カトマンズはロマンチックな町だった。まず驚かされるのは、お寺の多いこと。まるでお寺で埋まっているかと思うばかりだ。見慣れないヒンズー教のもののほかに、日本の寺院建築から受ける印象と通じる木造のものが少なくない。

カトマンズを発って5日目のことだった。私たちのコースは、海抜1300メートル以上もある「ネパール谷」の盆地から、いったんは海抜2000メートル以上のカカニ丘を越え、それから一挙に亜熱帯の谷間へくだっていたのである。

われわれの歩んできた道、それはカトマンズとポカラとを結んで東西に走る、いわばネパールの東海道だ。

ヒンズー教の人生観が支配しているらしい亜熱帯では、同時にカースト制度の社会ができあがっているらしい。カースト制度というのは、インドの社会を支配する有名な階級制度である。それぞれの階級をなすカーストは、ほかのカーストとは絶対結婚しないといわれる。上級のカーストの者はとりわけ下級のカーストの者を不浄扱いし、ばあいによっては、体に触れることも厳禁する。各カーストには、それぞれ職分というものがあり、ほかの職業を自由にえらぶことができない。

カリ・ガンダキ。この大河は、はるかなチベット高原に源を発し、やがて、世界屈指の2巨峰 -ドーラギリとアンナプルナ- の間で大ヒマラヤを真っ二つに断ち割り、氷河の水をあつめつつさらに南へ、亜熱帯の世界へと休みない旅を続けている。

カリ・ガンダキ上流に位置するトゥクチェ。ここでくらすタカリー族の富裕階級は、高等教育を受けさせるために、自分の子弟ををインドの大学に送っていて、私が訪れた当時にはすでに、パナレス大学を卒業したマスター・オブ・アーツが一人生まれていた。

トゥクチェを過ぎると、峡谷はしだいに打ちひらけていく。いつのまにか私たちはすっかり様子のちがった世界に来ていたのだ。それは高原と砂漠の国である。たった数日行程のうちに、なんという変わりようだったろう。ここはチベット人の世界である。

チベット人の世界にふみこんでから、いちばん目につくもののひとつはおびただしいチョルテン(仏舎利塔)である。

チベット人がくらすカルチェ村にすみこんで。いたるところに牧場があった。耕作地がおしまいになっているところよりずっと上の方まで。

死体を粗末にするチベット人は、死体の霊魂のゆくえについては、どうやら非常に関心を抱いているらしい。この村では、人が死ぬとラマは彼の霊の死後の運命を占うのである。

愛することも厳しく、憎むことも徹底している。喜びにつけ悲しみにつけ、チベットの空のように鮮烈で深い。

純粋に遊牧的な生活をするチベット人にくらべて、半農半牧で定住生活をする農耕チベット人のほうに一妻多夫の割合が多いのは、定住生活のために財産をたくわえる見込みが多いためである。そのため、家産を分割すると不利になる事態が、いっそう頻繁に起こるからであろう。

熱帯の悪疫の流行する風土が教えた、衛生学的な経験の知恵と、それとむすびついて発展した心理的な物差しが、カースト社会の形成にたいして、ひとつの必要条件を与えてはいなであろうか。

私はまず、ノートに書き付けた記録を、片っ端から一枚ずつのカードに分解して書き写してゆく。カードの上端に、内容を一行で簡潔にあらわしたキャッチ・フレーズを書きこむ。

カードをバラバラ見ながら、思いつくままに、さらに小分けの項目を紙きれにひとつずつ書く。それから、そのメモを書きつけた紙きれを、机の上いっぱいに並べて、ああでもない、こうでもない、と思いながら順序だてる。それがすむと、それにしたがって、原稿を書き下ろすための第何章第何節というプログラムをつくる。そのプログラムどおりにカードを並べる。カードをくくりながら原稿書きにかかる

人間というものは、表現してみなければ知識が身につかないものである。

ヒマラヤに住む人びとの映像がだんだんはっきりした形をとってきた。

紀行の形を借りて説いたフィールドワークの方法論への執着は、ついにKJ法となり、『発想法』『続・発想法』という諸著作へと展開してきたのである。

本書は、今から61年前におこなわれたネパール王国のフィールドワークのようすを紀行として記録するとともに、最終章では、ヒンズー文化・チベット文化・漢文化について、比較しながらそれぞれを考察をしています。

本書には、体験記録と方法論の二重構造が存在します。ひとつは、当時のネパール王国を知る貴重な記録であり、もうひとつはフィールドワーク方法論です。

フィールドワークとKJ法、情報処理の仕方についてまなぶうえで、本書は大いに参考になります。


文献:川喜田二郎著『ネパール王国探検記』光文社、1957年

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