定性的データを処理する方法である「KJ法」の原典です。今回は、その中核である第Ⅳ章「狭義のKJ法Ⅰランド」について解説します。

KJ法とは「データをして語らしめる」方法であり、具体的には、ブレーンストーミングやフィールドワークでえられた定性的データ(数量化できないデータ)を図解化して処理していく技術です。

これは、既存の仮説を確認したり、すでにできあがっている体系を学習したりするための方法ではなく、その逆の、あらたに仮説を発想したり、新規に体系を構築したりするための方法です。


以下に要点を整理します。
 
KJ法の手順は大局的にはつぎの通りです。

 《取材》→《KJ法1ランド

取材とは、フィールドワーク、記録類からの抜粋、討論、その他によりデータを取得することです。

KJ法1ラウンドの手順は以下の通りです。

 《ラベルづくり
   ↓
 《グループ編成》(ラベル拡げ→ラベル集め→表札づくり)
   ↓
 《図解化》(空間配置→図解化)
   ↓
 《叙述化》(文章化または口頭発表)

・ラベルづくり
 取材によって得られたデータをラベルに記入します。1枚1項目の原則にたって、1枚のラベルがひとつの「志」をもつように書きます。

・グループ編成
「ラベル拡げ」:データ化したラベルを自分の前に縦横にならべます。
「ラベル集め」:拡げられたラベルをすべて読み、「志」が似ていると感じられるラベルを集めてセットにします。セットにならない「一匹狼」がのこってもよいです。
「表札づくり」:セットになったラベルの内容を要約し、あたらしいラベルに「表札」として記入して、セットの上にのせクリップでとめます。

 グループ編成は、ラベルの束が数束以内、最大10束以内になるまでおこないます。

・図解化
「空間配置」:模造紙をひろげ、ラベルの束をすわりのよい位置に空間的に配置します。
「図解化」:
 模造紙にラベルを貼り付け、各グループごとに島どりをし、表札を転記、関係記号を記入します。
 各島に、「シンボルマーク」を記入します。「シンボルマーク」とはその島が情念的に訴えかける意味内容をズバリと表現したものです。
 図解の表題と註記を記入します。註記は、(1)とき、(2)ところ、(3)出所、(4)作製者、の順に記します。

・叙述化
 図解の内容をよく噛みしめて味わい、内容をストーリー化します。


以上をふまえ今回は、KJ法の上記の手順を、情報処理(インプットプロセシングアウトプット)の観点からあらためてとらえなおしてみます。

まず取材は、見たり聞いたりして情報を取り入れることでありインプットに相当します。

「KJ法1ラウンド」のうち、「ラベルづくり→グループ編成→図解化」は、定性的データをもとにしてイメージを形成していくプロセスであり、プロセシングに相当します。「ラベルづくり→グループ編成→図解化」の手順を「イメージ化」とよぶこともできます。

叙述化(文章化または口頭発表)は、メッセージを相手につたえることであり、外部にむかって情報をアウトプットすることです。叙述化は「言語化」とよぶこともできます。

したがって、情報処理の観点からKJ法をとらえなおすと以下のように整理できます。

 1.インプット:取材(観察・聞き取りなど)
 2.プロセシング:イメージ化
 3.アウトプット:言語化(叙述化)

取材については、 観察や聞き取りをあらたにおこなうことが基本ですが、過去に観察したこと、過去に聞き取ったこと、心のなかにすでにインプットされている情報を活用してもよいです。過去に見聞きしたことは記憶として心の中にすでに蓄積されています。そのためにはブレーンストーミングをおこない、過去の情報を想起します。通常は、まずブレーンストーミングをして記憶を想起し、そのつぎに取材にでかけて、あらたな観察や聞き取りをした方が効果的です。

KJ法で図解をつくっていくプロセスはイメージをつくっていくプロセスにほかならず、イメージをえがくことは情報処理の基本です。

KJ法によるイメージ化の特色の第1は、似ているデータをあつめるところにあります。ここでは類似性の原理をつかっていて、似ている情報はそもそも自然にあつまってくるのです。KJ法は類推の技術化といってもよいです。

第2の特色は、複数のラベルの内容を「表札」に統合・要約するときにおこなう圧縮表現です。この圧縮表現は、空間を利用した情報処理の次元を高め(情報処理の次元を2次元から3次元に上げ)、情報処理を加速しその効率を一気に高めます

第3の特色は、イメージ(図解)の中に言語がうめこまれていることです。このために、アウトプットの言語化がとても効率的にやりやすくなります。

このように、KJ法を、現代の情報処理の観点からとらえなおすことは重要なことであり、これにより全体の見通しがとてもよくなります。 


文献:川喜田二郎著『KJ法 -渾沌をして語らしめる-』中央公論社、1986年11月20日