神戸市立博物館で開催されている大英博物館展(100のモノが語る世界の歴史)はモノを通して世界史を概観できるまたとない機会です。

とくに印象にのこったのは以下の4点でした。

001「オルドヴァイ渓谷の礫石器」(200-万180万年前、タンザニア)
礫石器は、人類によって意図的につくられた最古の物の一つです。一緒に見つかった動物の死骸がたたきつぶされていることから、この道具の重量と凹凸の先端部分をつかって骨をわり、骨髄のなかの脂肪をとりだしていたことがわかります。

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013「ウルのスタンダード」(紀元前2500年ごろ、イラク)
約5000年前、メソポタミアに人口3万から4万人の集落が複数出現しました。都市の誕生です。中でも有名なのがシュメール人の都市ウルでした。「ウルのスタンダード」はウルの王家の墓から見つかったもので、表裏2面のパネルは戦争と平和をあらわしています。

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025「金製のゾロアスター教徒像」(紀元前500−前400年、タジキスタンとアフガニスタンの国境)
約2500年前、アケメネス朝ペルシャは世界最大の帝国に発展しました。ペルシャ帝国はゾロアスター教を国教とし、ゾロアスター教徒たちは火を神聖なものとかんがえました。

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097「銃器で作られた『母』像」(2011、モザンビーク)
19世紀は「アフリカ分割」の時代でした。ヨーロッパ列強がアフリカの土地をめぐってあらそい、広大な領域を自国領として主張しました。1960年ごろからは独立戦争がはじまり、そこから内戦が勃発しました。戦後、銃がふたたび使用されることのないように、地元のアーティストが武器を切断して芸術作品をつくりはじめました。

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人類は、約250万年に石器づくりをはじめ道具をつかうようになりました。自然環境と一体になった生活をしばらくはしていましたが、そのご農耕を開始して定住生活をするようになり集落ができました。そして約5000年前には都市が誕生、そして都市国家が成立していきました。それぞれの都市国家は膨張をつづけおたがいに戦争をするようになり、紀元前700年頃には帝国が出現しました。帝国の時代が長くつづいたのち、19世紀の産業革命を機に近代化の道をすすみ今日にいたっています。

「100のモノ」を通してみた世界史の概観はこのようであり、下記のような模式図(モデル)であらわすことができます。そして上記の4つの「モノ」はそれぞれ以下のように位置づけることができます。


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図 世界史モデルと「モノ」の位置づけ


このように、世界史を理屈で理解するのではなく、具体的な物(実物)を見ながらイメージで理解できるのが今回の特別展の最大の特色です。また具体的な実物や事実をおさえることはきわめてサイエンティフィックな態度であり、物事をクリアーにとらえることを可能にします。


▼ 注
「大英博物館展 ―100のモノが語る世界の歴史」特設サイト
神戸市立博物館(2015年9月20日〜2016年1月11日)

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▼ 参考文献
『大英博物館展 - 100のモノが語る世界の歴史』筑摩書房、2015年3月25日
本書は展覧会場でも買えますが、一般書店でも販売しています。