取材活動をすすめるにあたっては、どこをどうほっつきあるけばよいか、どのように取材ネットをうてばよいかが問題になります。民族地理学者の川喜田二郎はそのための原則として「探検の5原則」(注)をうちだしました。

テーマ(課題)をめぐって以下の原則にしたがって取材をすすめるようにします。これを意識するだけでも取材は確実にすすみます。


(1)360度の視角から
(2)飛び石伝いに
(3)ハプニングを逸せず
(4)何だか気にかかることを
(5)定性的にとらえよ
 

(1)360度の視角から
360度の視角から多角的に取材をせよという原則です。これにしたがって個別的で些細な事実を多角的にあつめるようにします。するとデータに多様性が生じ、その後の判断にあやまりが生じにくくなります。

これに反して、すぐに解決策にはいろうとして「きっとこうだろう」と臆断し、その角度からのみ取材をすると失敗します。

このような観点からは取材の最初の段階では特定の仮説にはとらわれないようにします。仮説にとらわれると視野がせまくなりあらたな素材、意外な発見がえられなくなります。仮説があってもまずはそれにはとらわれずに取材をすすめることが大切です。


(2)飛び石伝いに
自分の身近なところから次第に遠いところへ、計画的に飛び石伝いに取材をしていきます。

すでにもっている情報をおもいだすことからはじめて、つぎに間接情報にあたり、そして現場での直接取材にはいります。現場で取材をしていると「そういうことだったら○○さんに聞いてください」というようにあらたな情報提供者を紹介されることもあります。

こうして取材範囲を徐々にひろげていきます。


(3)ハプニングを逸せず
問題意識をつよくいだいていると意外な情報がたまたまとびこんでくることがよくあります。こういうハプニングを逸しないようにします。ハプニング情報にたすけられることはとても多いです。

人類の大きな発見・発明にハプニングによるものが多いです。

ハプニングを逸しないためには、予定や計画にあまりとらわれすぎないこと、つねに心がひらかれていること、ハプニングで得た情報をすかさずメモすることが大切です。


(4)何だか気にかかることを
役立つかどうかはわからないが、何だか気にかかるという情報はとにかくデータとしてとりこんでおきます。これはハプニングの問題とも関係がふかい原則です。

理屈ではない臭覚にも似た能力が人間にはあり、この能力の方が理性よりもはるかに先行して必要な情報をかぎつけます。わたしたちは本源的には、自分をとりまく全体状況を全体として感じとる能力をもっています。

理由のいかんを問わず何だか気にかかることもかならずメモしておきます。


(5)定性的にとらえよ
取材活動では定性的データをまずはとれという原則です。いいかえると、定量的データを計測するのはあとまわしにせよということです。定性的データとは言葉で記載されるような情報のことであり、定量的データとは数値であらわされる情報のことです。

上記の第1原則から第4原則を実践するためにはまずは定性的でなければなりません。最初から計測にこだわると計測にひっかかるデータ、計測しやすいデータだけをあつめることになりかたよりが生じてしまいます。

実際には、仮説を発想するまえの段階ではおもに定性的でなければならず、その後の仮説を検証する実験の段階では定量的にとらえることが多くなるのです。


▼ 注:引用文献
川喜田二郎著『KJ法 渾沌をして語らしめる』中央公論社、1986年11月20日
KJ法―渾沌をして語らしめる 

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