特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」が東京国立博物館で開催されています(会期:2015年5月17日まで、注1)。
今回は、第1展示室「仏像誕生以前」にある「ムーガパッカ本生」(シュンガ朝、紀元前2世紀頃)に注目してみます。ひとつのイメージで物語を一望する例として参考になります。
これは、インド、マディア・プラデーシュ州、サトナ、バールフットで発見されました。展示会場は撮影禁止なので図録(注2)の写真をとって説明します。数字でしめしたように6つの部分にわかれていて、それぞれがつぎのことをあらわしています。
① 生まれたばかりのうごかない王子をだく父王② 森に王子をすてにいくための馬車③ 王子の墓穴をほる召使い④ はじめて進退をうごかした王子⑤ 森のなかで出家した王子⑥ 王子の教えをきく父王と王族
釈迦前世の物語を1枚のイメージにあらわしたものであり、本来は同時には見えない場面を同時にみることができます。物語の全体を一望でき、全体像がわかります。
これを言語であらわすとつぎのようになります(注2)。
おさないテーミヤ王子(釈迦の前世)は、前世も国王でしたが、死後は、ながく地獄でくるしみました。そのため、また同じ人生をおくらないように今度は出家しようと不自由な身体をよそおいます。16歳になっても身体はうごかず父王は召使いに墓穴をほらせ、王子を森にすてました。そこで王子ははじめておきあがり出家したといいます。
物語の内容そのものは後世の人がつくったものでしょうし、今は問題にはしません。それよりも物語をイメージにすることが情報処理をすすめるために有効であることを強調したいとおもいます。
物語は時系列的な流れですから言語をつかった方が細部まで表現しやすいかもしれませんが、このように1枚のイメージとして空間的にあらわすこともできます。空間をつかうことによって視覚的に全体を瞬時にとらえることが可能になります。イメージと言語とは時と場合によってつかいわけ、またくみあわせて使用するとよいでしょう。
たとえば、ことなる時代のことなる条件下での出来事を地図上にすべてプロットするとすべての情報を瞬時に一望することができるようになります。地図の便利さはここにあります。情報を並列させて並列的に処理することができるようになるのです。地図をつかった情報処理システムとして Googleマップ や Google Earth をつかいこなすヒントもここにあります。
このようにプロセシングのポイントは空間をうまくつかうところにあります。「ムーガパッカ本生」は記憶法やイメージ訓練(心象法)を実践するうえでも参考になります。
▼ 注1
東京国立博物館・特別展「コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」
▼ 注2
東京国立博物館・日本経済新聞社・BSジャパン編集『特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流』2015年3月17日、日本経済新聞社発行
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