中村元著『ブッダ入門』は、仏教の開創者であるゴータマ=ブッダの生涯と思想を解説したブッダ入門書です。神話的な聖者としてではなく、一人の人間としてブッダの姿を学術的にのべているのが特色です。春秋社が主催した連続講演会の記録をもとに執筆された解説書であり、ブッダをたたえる神話・伝説を記述したいわゆる仏伝ではありません。

目次
第一章 誕生
 一 はじめに
 二 家系と風土
 三 釈尊の誕生
第二章 若き日
 一 幼き日々
 二 若き日の苦悩
 三 結婚
 四 出家
第三章 求道とさとり
 一 釈尊とマガダ国王ビンビサーラ
 二 道を求めて
 三 真理をさとる
第四章 真理を説く
 一 説法の決意
 二 釈尊の説いたこと
 三 伝道の旅へ
第五章 最後の旅
 一 釈尊とヴァッジ族の七つの法
 二 終わりなき旅路
 三 最後の説法

著者が実際に現地を訪問したときの見聞をおりまぜながらかたっているのでとてもわかりやすく、読んでいると実際に行ってみたくなります。

ブッダはルンビニー(現ネパール領内)で誕生しました。「釈迦の誕生は紀元前463年、亡くなったのは紀元前383年」という説を著者は提出していますが、確定的なことはいえないそうです。29歳で出家して、その後ブッダガヤーの菩提樹の下で悟りをひらき、サールナートで説法をはじめ、故郷をめざしてあるいている途中のクシナーラーで入滅しました。

ブッダの生涯については、ルンビニー、ブッダガヤー(ボードガヤー)、サールナート、クシナーラー(クシナガラ)という聖地(場所)にむすびつけてとらえることができ、理解しやすくてありがたいです。特定の場所(地図上の位置)にむすびつけて情報を理解し記憶しておくと、あとでそれらの情報がつかいやすくなります。

またブッダが生きた時代の背景にも注目しておきたいとおもいます。

釈尊は、出家してから七日目に、当時最大の国であったマガダ国の首都、王舎城におもむいたといわれています。(中略)当時の都市は城郭で、城壁でとり囲まれていたので、王舎城というのです。この「城」を日本のお城の意味で解釈すると、ちょっと食い違います。むしろ都市ですね。(87ページ)

王舎城(注)の城壁の跡が今でも見られ、城壁の中全体が都市だったそうです。つまり当時の国家は基本的には都市であり、国の規模はまだ小規模であったのであり「都市国家」とよぶことができるでしょう。

のちに、王舎城のマガダ国はあちこちの都市を征服してインド統一にのりだしていくことになります。それにともない首都はパータリプトラ(現パトナ)にうつされます。そして前3世紀、マウリヤ朝アショーカ王の時にインド初の統一帝国がきずかれました。

つまりブッダが活動した時代は、いくつもの都市国家同士が戦争をはじめた非常にきびしく残酷な時代だったということができます。多くの都市国家が滅亡して領土国家(帝国)が建設されていった時代です。都市国家が崩壊して都市国家の時代がおわりつつあり、領土国家(帝国)の時代へとうつりかわっていく大きな歴史的転換期にブッダは生まれたとかんがえられます。

このようにブッダという一人の人間の一生を知ると同時に、ブッダが生きた時代の背景もあわせてとらえることが大切だとおもいます(図)。

150421 一生と時代的背景
図 人の一生と同時に時代的背景もとらえる



▼ 注
王舎城は、パーリ語で「ラージャガハ」、サンスクリット語で「ラージャグリアハ」といい、現在のインド・ビハール州・ラージギルです。周囲は連山でかこまれ、その中は平地で都市になっていて、連山に城壁をめぐらせて敵から都市を防御していました。Google Earth でみると連山が確認できます。当時のインドでもっとも文明がすすんでいた都市のひとつでした。

Google Earth <ラージギル(王舎城)>


▼ 引用文献
中村元著『ブッダ入門』春秋社、1991年9月10日
ブッダ入門

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