本多勝一著『極限の民族』は、イニュイ民族(カナダ=エスキモー)ニューギニア高地人アラビア遊牧民と生活をともにして書かれたルポルタージュであり、当時はほとんど知られていなかった「極限の民族」のくらしぶりを生き生きとえがきだしています。近代化がすすんで今ではもう見られなくなった「極限の民族」の姿の貴重な記録でもあります(注)。
 
本書は文化人類学の専門書ではなく、朝日新聞に連載されたルポをまとめたものであり、一般の読者が読んで十分にたのしめる内容になっています。初版は、1967年に、本多勝一著『極限の民族』(朝日新聞社)として刊行されました。
 
目次
第一部 イニュイ民族(カナダ=エスキモー)
 「ウスアクジュ」への道
 極北を生きぬく知恵
 アザラシ狩り
 犬を甘やかしてはならぬ
 カリブー狩り
 雪の家
 太陽の沈まぬ国
 セイウチ狩り
 エスキモーの心
 極北の動物たち
 遊猟の民
 
第二部 ニューギニア高地人
 意外なジャングル
 モニ族の簡素で家庭的な生活
 石器時代も案外不便なものではない
 アヤニ族とナッソウ山脈横断の旅へ
 ニューギニア高地人に襲われた日本軍
 ダニ族の団体生活と奇妙な男たち
 ホモ=ルーデンス
 
第三部 アラビア遊牧民
 アラビア半島内陸の砂漠へ
 親切で慎み深いベドヰンたち
 ラクダに人間が飼育されるような生活
 砂漠の夜の主人公は野生動物である
 「虚無の世界」としての大砂丘地帯
 羊飼いも重労働でなかなか大変だ
 親切で慎み深いベドヰンの実態
 ベドヰンの方が普遍的で、日本人こそ特殊なのだ
 『月の沙漠』の夢と現実
 
朝日文庫版へのあとがき・補記
 
 
第一部「イニュイ民族(カナダ=エスキモー)」では、イニュイ民族が極寒の環境下で生きていけるのは、彼らが普通の人とはちがう特別な体質をもっていたからではなく、極寒の世界に適した衣服や住居や狩猟法を開発、環境に適応した生活様式を生みだしたからだということが読みとれます。
 
第二部「ニューギニア高地人」では、一転して、赤道下のジャングルが舞台になり、そこには基本的に裸でくらす人々がいました。自然環境と一体になったくらしぶりが一層顕著です。
 
ペニス=ケースや指切りなどの変わった風習もありますが彼らは人食い人種ではなく、石の包丁やナイフや斧をつくりだし、また火をおこし石むし料理をつくるなど、自然環境をたくみに利用しながらくらしています。彼らの生活様式は人類の進化をかんがえるうえでもとても参考になります。

非常に原始的な生活をしているようですが、生肉を食べているイニュイ(カナダ=エスキモー)よりも多様性がありゆたかな生活様式をもっているような感じがします。ゆたかな自然環境の恩恵を享受しているということなのでしょう。
 
第三部「アラビア遊牧民」では、これもまた一転して、アラビアの広大な乾燥地帯が舞台となり、極北とも、ジャングルともちが砂漠の異空間が展開していきます。
 
本多勝一さんの言葉を引用しておきます。 
 
これほど大量に飲み、汗を出しても、決して「滝のような汗」ということにはならない。あまりにも乾燥しているから、汗は出る片端から蒸発してしまう。
 
エスキモーと共に生活したとき、私たちは「人間は、未開・文明を問わず、民族を問わず、結局おじものなんだ」という実感を強く覚えた。本当に、心の底から「世界は同胞だ」と思ってもいいような、感傷的気分にさえなって、私たちは北極圏から帰った。この実感は、ニューギニアのモニ族・ダニ族と生活したときも、強められこそすれ弱まりはしなかった。だが、ベドヰンはどうか。ここではエスキモーとは正反対に、「人間は、なんて違うものなんだろう」という実感を強く覚える。民族が違い、歴史が違うと、かくも相互理解が困難なのか。これこそ、本当に「異民族」なのだ。
 
 
以上のように、本書は、イニュイ民族(カナダ=エスキモー)、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民のそれぞれを比較することによって、それぞれの民族の特徴が一層鮮明にうかびあがる効果をもっています

本書の中身は朝日文庫の3冊に分冊されて販売もされていますが、それらを別々にゆっくり読むよりも、本書を一気に読んで全体を一望したほうが3の民族のちがいがよくわかり理解がすすみます。わたしたち日本人が知らない「極限の民族」についてすこしでも認識をふかめておくことは世界や地球の多様性を知るためにとても役立ちます。


▼ 引用文献
本多勝一著『極限の民族』(本多勝一集 第9巻)1994年2月5日
極限の民族 (本多勝一集)  

▼ 関連図書


▼ 注:取材時期について
イニュイ民族(カナダ=エスキモー)、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民のそれぞれの取材時期は、1963年5月~6月、1964年1月~2月、1965年5月~7月でした。 

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