国立科学博物館の特別展「大アマゾン展」(注1)に関連しておもしろい本があります。伊沢紘生著『アマゾン動物記』です。おもにアマゾンのサル(新世界ザル)とその研究にもとづく進化論についてかたっていて、たのしみながら読みすすめることができます(注2)。写真が豊富で、ほかの動物たちについてもある程度紹介しています。

目 次
新世界ザル
密林に生きる

新世界ザルについては、それぞれのサルの特徴をつぎのように形容してわかりやすく紹介しています。

おとなもあそぶウーリーモンキー
クモザルもあいさつをする
ホエザルはアマゾン一の大声の持ち主
道具を使うオマキザル
空々しいリスザルの群れ
夜行性のヨザルの行動
対照的なサキとウアカリ
"きたない森" にティティはすむ
生きた化石ゲルディモンキー
食物を分け与えるセマダラタマリン
高貴な顔だちエンペラータマリン
半日先を考えるピグミーマーモセット

たくさんの写真をつかってわかりやすく紹介していて、新世界ザルさらには生物の多様性について知ることができます。

そして、新世界ザルの調査結果にもとづいてサル類の進化についてつぎのような仮説をたてています。

新世界ザルの系統進化が、競争の原理でなく、すみわけ をとおした共存の論理で説明されうるなら、狭鼻猿類の系統進化や人類の起源もまた、後者にもとづいて説明する試みが必要になってくると思われる。

つまり、ゆたかな多様性をもつアマゾンの生態系は、競争原理と自然淘汰ではなく、すみわけによる共存原理で成立してきたと見なせるということです。狭鼻猿類とは、アフリカやアジアにいるサル類のことです。

本書の後半の「密林に生きる」では、アマゾン川流域でくらす現地住民の狩猟についてかたっていて、アマゾンの猟師が、野生動物たちのそれぞれの習性を知りつくし、それをたくみに利用して狩猟していることを具体的に紹介していて興味ぶかいです。


生態系というものは、多様性を生みだしつつも、みずからのシステムを維持するように進化するという大局に、アマゾンをとおして気がつくことが大切だとおもいます。
 
そのためには、物事の全体像を見る目をやしなう必要があります。その世界の大局を大観できるようになるということです。
 
そのうえで、たとえば昆虫に興味があれば昆虫をくわしくしらべる、魚類に興味があれば魚類をくわしくしらべてみればよいでしょう。最初から特定の局所にとらわれすぎないことが大切です。

課題にとりくむときは、〔1.大局を見る → 2.局所をとらえる〕という順序をふむとよいでしょう。


本書は専門書ではなく、『毎日グラフ』(毎日新聞社)と『アニマ』(平凡社)に寄稿したものが内容の一部になっているそうで、一般の読者が読んでも十分にわかる内容になっています。アマゾンの入門書としておすすめします。



▼ 引用文献
伊沢紘生著『アマゾン動物記』どうぶつ社、1985年3月15日
アマゾン動物記 (自然誌選書)  

▼注1
国立科学博物館・特別展「大アマゾン展」

▼ 注2
アフリカ大陸とユーラシア大陸を旧世界とよぶのに対し、アメリカ大陸を新世界とよんでいます。

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アマゾンの生態系に共存原理をみる - 伊沢紘生著『アマゾン動物記』-
自然環境と共生して生きている人々がいる - アマゾン展 -


▼ 関連書籍
上記の『アマゾン動物記』を発展させたのが下記の書籍です。世界的なサル学者によるアマゾン研究の集大成であり、熱帯雨林の壮大な物語、著者渾身の力作です。大部な本ですが専門的な学術書ではなく、一般の人が読んでもたのしめる内容になっています。アマゾンの自然、特にサル類について知りたい人におすすめします。

伊沢紘生著『新世界ザル(上)アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』東京大学出版会、2014年11月25日
序章 絢爛たる樹上の世界
第1章 アマゾンでの調査三〇年
第2章 樹海に轟く咆哮 − ホエザルを追って
 1 本格的な調査に向けて
 2 お前はそれでもサルなのか
 3 アマゾン一の大声の謎
 4 オスの交代と子殺し
 5 ホエザルの別の顔
第3章 ずば抜けた賢さ − フサオマキザルを追って
 1 かたいヤシの実を割って食べる
 2 どれほど賢いか
 3 社会のありようを一五年間追う
 4 フサオマキザルの周辺


伊沢紘生著『新世界ザル(下)アマゾンの熱帯雨林に野生の生きざまを追う』東京大学出版会、2014年11月25日
第4章 林冠を風の如くに — クモザルを追って
 1 クモザルの群れの内側と外側
 2 クモザルの食べもの
 3 クモザルの行動と社会
 4 ウーリーモンキーの生態と社会
第5章 きたない森の小さな忍者 — ゲルディモンキーを追って
 1 ピグミーマーモセットの生態と分布
 2 ゲルディモンキーを探しての長い旅
 3 餌づけして調べる
第6章 浸水林に生きる — サキとウアカリを追って
 1 アマゾン一毛深いサル
 2 赤いマントを羽織ったサル
第7章 小鳥の囀りにも似て — セマダラタマリンを追って
 1 小さいサルの調査に挑戦する
 2 セマダラタマリンとほかのタマリンとの関係
第8章 樹林の月夜と闇夜 — ヨザルを追って
第9章 絡みつく蔦の中で
終章 きれいな森ときたない森
 1 新世界ザルの多様性
 2 アマゾン川上流域を舞台に起こったこと