佐々木閑著『NHK 100分 de 名著 般若心経』は、「日本で一番人気のお経」について、「釈迦の仏教」と「大乗仏教」の違いに注目して解説しています。

本書によると、『般若心経』は、釈迦自身のおしえとは違う別の道をおしえているのだそうです。著者は、「『般若心経』のイメージをひっくり返してしまうかもしれません。みなさんが抱いている理解と、私はたぶん違うことを言うと思います」と冒頭でのべています。

『般若心経』が述べていることは必ずしも釈迦の考えではありません。それはむしろ、「釈迦の時代の教えを否定することによって、釈迦を超えようとしている経典」なのです。

釈迦の死から約五百年たった紀元前後、つまり今から二千年ほど前のインドで、新興の宗派である「大乗仏教」が興りました。『般若心経』は、その大乗仏教運動の中で作られた数多くの「般若経」をもとにできあがったものです。

仏教に限らずどんな世界においても、後発のグループは先行するグループを超えるために、それまでの常識を覆すような新機軸を打ち出して自分たちの場所を獲得していきます。

 
「空」についてはつぎのように解説しています。

この世はそのような理屈を超えた、もっと別の超越的な法則によって動いている。これが「空」である。

基本要素(現代でいえば素粒子)も非実在であり、錯覚であると主張したのが大乗仏教の「空」なのです。

「空」とは、「釈迦の仏教」の理屈をこえた超越的な法則のことだというわけです。


救済についてはつぎのように解説しています。

「釈迦の仏教」では、まず自己救済の「自利」があり、それが回り回って結果的に他者の救済、つまり「利他」に転じるという「自利→利他」の流れを基本構造として持っています。一方、大乗仏教では、最初から「利他」をよしとして他人の救済に目を向けます。

大乗仏教では、他者をすくった結果として最終的に自分がすくわれるとかんがえるのだそうです。


本書は、「釈迦の仏教」から「大乗仏教」へと発展した仏教の歴史を踏まえ、また、「釈迦の仏教」と「大乗仏教」との相違に着目して「般若心経」について説明しているところに特色があります。『般若心経』の全訳とその解説については本書にくわしく記載されています。このように、歴史あるいは発展の段階を踏まえて、「般若心経」あるいは仏教について理解をふかめていくことには大きな意味があるとおもいます。

▼ 関連記事
仏教を歴史的にとらえる -『池上彰と考える、仏教って何ですか?』(1)- 

▼ 文献