梅棹忠夫著『知的生産の技術』の「おわりに」で、梅棹さんはつぎのようにのべています。

このシステムは、ただし、まったくの未完成のシステムである。社会的・文化的条件は、これからまだ、めまぐるしくかわるだろう。それに応じて、知的生産技術のシステムも、おおきくかわるにちがいない。ただ、その場合にも、ここに提示したようなかんがえかたと方法なら、じゅうぶん適応が可能だとおもうが、どうだろうか。

本書のかんがえ方と方法で適応が可能だとおもいます。

人類は、1990年代に情報化を本格化させました。情報革命は今後ともすすみ、情報産業社会はおおきく発展するでしょう。

しかし、本書を通してあきらかにされた「知的生産」のかんがえ方については今後とも変わらず、この原理は普遍的なものとして時代を超越していくとかんがえられます。たしかに、つかう道具はあたらしいものに変わりますが、ここにしめされた原理をつかっていれば、あたらしい時代にも適応ができるとおもいます。

本書が発行された1960年代といえば、まだ、工業化のまっただなかにあり、情報産業社会の到来、高度情報化についてはほとんどの人は意識していなかったとおもいます。しかし梅棹さんは、知的生産の研究開発を通して、その原理に気がつきました。今日からみれば、情報化のパイオニアであったとかんがえられます。


梅棹さんは、本書において、みずからの研究開発の過程を、その第一歩からくわしく書いて、そのなかで知的生産の原理についてかたっています。意識して筋道を書いて、技術の発展史とともにその原理をかたっているのです。本書が47年間も読みつがれ、ロングセラーになっている理由がここにあるのだとおもいます。

これがもし、研究開発の結果や最新の成果だけを書いたとすると、それは、2〜3年たつとふるくなって役にたたなくなってしまいます。

梅棹さんの書き方は、文章の書き方のひとつのモデルとしてつかえます。つまり、研究開発の過程も書いてよいのです。むしろ、そのようなみずからの実体験を具体的にしめして、自分があるいてきたその道のりを通して、原理や本質をかたった方が、メッセージはつたわりやすいのだとかんがえられます。

データと原理を教科書的にのべるのではなく、物語としてかたります。すると、それからどうなったのか、誰もが知りたくなります。その先の進歩については、今日のわたしたちが知っているとおりです。そして、物語は、さらに未来にむかってつづいていきます。

このような意味で、『知的生産の技術』は、情報化の最初の一歩の物語でもあったのです。情報産業社会は今後とも大きく発展するでしょうが、本書は、知的生産あるいは情報処理に関する古典として、後世まで読みつがれていくことでしょう。


▼ 関連記事
iPhone を「発見の手帳」としてつかう - 『知的生産の技術』をとらえなおす(1)- 
ノート、カードから iPhone & Mac へ - 『知的生産の技術』をとらえなおす(2)-
カードを操作するようにファイルを操作する - 『知的生産の技術』をとらえなおす(3)-
ScanSnap をつかって紙の資料をファイルにする - 『知的生産の技術』をとらえなおす(4)-
階層構造になったファイリング・システムをつくる - 『知的生産の技術』をとらえなおす(5)-
3段階をふんで読む - 梅棹忠夫著『知的生産の技術』をとらえなおす(6)-
日本語を書く - 梅棹忠夫著『知的生産の技術』をとらえなおす(7)-
情報交換、日記、記録、個人文書館 - 梅棹忠夫著『知的生産の技術』をとらえなおす(8)-
「こざね法」でかんがえをまとめる - 梅棹忠夫著『知的生産の技術』をとらえなおす(9)-
ファイルをつくる → ファイルを結合する → 文章化 - 『知的生産の技術』をとらえなおす(10)-
「知的生産の技術」も情報処理になっている
体験情報の処理をすすめよう 〜梅棹忠夫著『情報の文明学』〜
イメージ能力と言語能力とを統合して情報を処理する 〜 梅棹忠夫著『ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫、世界のあるきかた』〜
旅行とともに知的生産の技術を実践する - 梅棹忠夫著『知の技術』-