METライブビューイングで、トーマス=アデス作曲《テンペスト》を先日みました(注、MET=ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場)。

これは、シェイクスピア最後の戯曲《テンペスト》をオペラ化した作品であり、作曲したトーマス=アデス(Thomas Adès, 1971年3月1日 ロンドン - )は現代英国の作曲家で、英国の大作曲家ブリテンの再来ともいわれ注目をあつめている俊英です。本作は、英国コヴェント・ガーデン王立歌劇場にて2004年2月に初演されました。




物語は、原作の戯曲にもとづいてファンタジックな世界が展開していきます。

ミラノ大公プロスペローは、弟アントーニオに地位をうばわれて追放され、ながれついた孤島で娘のミランダとともにくらしていました。

プロスペローはその孤島で魔法の力を手に入れることに成功し、妖精アリエルに命じて嵐をおこさせ、弟アントーニオとナポリ王のアロンゾが乗った船を難破させて孤島に漂着させます。

漂着した船には、ナポリ王子フェルディナンドものっていて、彼は、プロスペローの娘ミランダと恋におち、プロスペローの試練をへて彼女とむすばれます。プロスペローはアリエルをあやつって公国をとりもどし、魔法の力をすてます。




ロベール=ルパージュによる今回の演出では、イタリア・ミラノのスカラ座(歌劇場)を舞台にして演じられるというおもしろい形になっていて、メトロポリタン歌劇場のなかにさらに歌劇場があるという設定になっていました。現実におこっているとおもわれる出来事は、実は、劇あるいは幻ということになり、《テンペスト》を一層ファンタジックな世界にしていました。

また脚本は、シェイクスピアの台本をそのままもってきたのではなく、エッセンスをコンパクトにまとめあげたものであり、オペラは、ストーリーを展開させるというよりも、 登場人物の内面世界を、不協和音と叙情的な高揚とが交錯する現代音楽で表現していました。

オペラでは、言葉よりも音楽の方が重視され、原作よりも言葉の数が少ないので、ストーリーがわかりにくいと感じるかもしれません。オペラになったシェイクスピアを鑑賞するときは、あらかじめ、『あらすじで読むシェイクスピア全作品』(河合祥一郎著)などであらすじを予習してからでかけた方がよいでしょう。



▼ 注
METライブビューイング(東京・東銀座の東劇にて上映、MET=ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場)
指揮:トーマス=アデス
演出:ロベール=ルパージュ
キャスト:
サイモン=キーンリーサイド(プロスペロー)、オードリー=ルーナ(妖精アリエル)、イザベル=レナード(ミランダ)、イェスティン=デイヴィーズ(トリンキュロー)、トビー=スペンス(アントーニオ)、アレック=シュレイダー(フェルディナンド)

METライブビューイングのウェブサイト >


▼ 参考文献
河合祥一郎著『あらすじで読むシェイクスピア全作品』(祥伝社新書) 2013年12月2日

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